フーディソン(東京都中央区)が運営する「perrot(ペロット)」は、「消費期限1日」という足の早い生鮮品までが並ぶネットスーパーだ。2020年8月にサービスをローンチし、生鮮三品(青果・精肉・鮮魚)を中心に扱っているが、特に鮮魚に強みがある。生きたままのカニやエビ、生ガキや季節の魚の刺身など、足の早い魚介類が新鮮な状態で届くことを武器にして勢力拡大中である。
鮮魚を売りにするスーパーマーケットは数あれど、あくまでも「リアル店舗」での話だ。ネットスーパーになると、販売する鮮魚の割合はぐっと下がる。この「生鮮ネットスーパー」というブルーオーシャンに挑むのがperrotなのである。
perrotの商品で目立つのが、日替わりのスポット商品だ。スポット商品は、獲れたての産直品が中心である。一般的なネットスーパーは、ネット専用の倉庫に商品を集めてから配送するケースと店頭の商品を配送するケースがある。前者は商品データを事前に作って販売するため、養殖魚や冷凍品など確実にそろう商品が中心になり、後者は店舗で情報化する必要があり、手間がかかるのであまり行われない。
ではなぜperrotは産直状態でのネットスーパーを可能にしたのか。そこには2つの秘けつがあった。
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産地をIT化して日替わり品をネットで販売
まず一つは、産地のIT化だ。
生鮮品、特に魚介類をインターネットで販売するのが難しいのは、「鮮魚は商品に品番がつけられないから」とフーディソン・伊藤貴彦執行役員は言う。
同じ魚でも日々獲れるものが変わり、大きさも一つ一つ違うため、規格化が難しい。店舗数の多い小売店であれば、売り場が多いので「今日のお魚」といったイレギュラーな商品を置くこともできる。しかし、同じことをネットスーパーでやろうとすると、前述の通り、店頭販売分と別に、入荷した商品に現場で品番をつけて情報化するのは手間がかかる。店で売りさばけばいいものをネットで売るインセンティブが働かないので、ネットスーパーに鮮魚があまり並ばないわけである。
逆に、ネットスーパーで鮮度にこだわろうとすると、入ってきたものをネットでいかに早く売るかが勝負どころになる。たくさん仕入れて安く売るという店舗ありきのビジネスモデルと違い、いかに規格化し、瞬時に商品ページを作って売りさばくかが売り上げを左右するからだ。
そこで、フーディソンが行ったのは産地のIT化だ。
深夜から早朝にかけて、漁に出ている産地の漁師とフーディソンのバイヤーがその日の漁の状況を電話で確認して注文する。漁から戻ると、注文した商品は市場便(東京都中央卸売市場である豊洲市場や大田市場など市場に魚を運ぶ専用の便)に乗って都内へと出荷される。地元市場で仲卸業者から注文するものもあるが、流れは同様だ。
産地から都心に注文した商品が配送されるのと並行して、仲卸業者やフーディソンのバイヤーが、同社が提供する情報入力システムを使い、生鮮品の種類、産地、数量、漁法など商品情報を登録する。産地の人が直接商品の説明文を書くこともあり、「少し小ぶりです」や「形が崩れていて少しお得」といった、現物そのものの説明書きができるのもメリットだ。その情報を基に、輸送と同時並行でperrotの担当者が商品ページを作成する。
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バイヤーの評価は「利益」を基準に
フーディソンの主力事業に、飲食店向けの「魚ポチ」というサービスがある。魚ポチは飲食店向けに同様の仕組みで鮮魚の発注サービスを行っていたのだが、昨年コロナ禍で魚ポチの売り上げが落ち込んだため、B2C事業として始まったのがperrotだった。
魚ポチには現地のデータをほぼ自動で変換して商品ページを作る仕組みを構築できており、3000超のSKUを3時間程度で商品ページ化するノウハウがある。それがperrotでも転用されたのだ。
このシステムにより、漁港から朝方に出荷し、商品はまだ都内に到着していない段階でも、ユーザーはその日の午後3時半前後に出荷途中の商品を注文できる。その注文に対して、フーディソンは都内に到着したばかりの商品を夜間から早朝にかけて加工し、最短で翌日の午後には家庭に配送する。
リアルのスーパーマーケットの場合、基本的には産地からいったん豊洲など都内の市場に入った生鮮品を仕入れ、翌日店頭に配送することが多い。そのため、perrotと比べれば1日分鮮度が落ちることが多い。また、市場で売られているものが、その日に獲れたものとも限らないため、バイヤーの目利き力も問われる。
説明文をよく書きすぎてギャップがあると、消費者側からクレームがあるためとても重要視している。「ネットで成り立たせようとすると、現場での書き込みの情報が全てになる。その情報での期待値と実物とにギャップがあると、そこからはもう仕入れない」(伊藤氏)という徹底ぶりなのは、返品があれば利益は簡単に吹っ飛ぶからだ。試行錯誤の末、バイヤーの評価も「売り上げ」ではなく「利益」を基準にしているという。
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ネットスーパーなのに大田市場に9区画を有する一大勢力
他のネットスーパーとperrotのもう一つの違いが、市場内で加工し、そこから家庭へと直送できるという点だ。
フーディソンは大田市場水産物部の仲卸店舗として子会社を登録している。仲卸業者として登録することで、市場から直送できる仕組みになっている。そのため、市場便で到着した鮮魚を、大田市場内で加工できる。加工センターが別の場所にある場合と比較すると、時間のロスが減るというわけだ。
もともと創業者である山本徹CEOが、東日本大震災を機に、鮮魚の流通を変えたいという思いから起業したが、ITの仕組みだけでは鮮度の高い商品の配送は実現できなかった。市場出身者を採用して、市場の仕組みを理解したうえでシステムを構築することで、現在の姿になったという。今では魚ポチは全国2万店の飲食店と契約しており、大田市場に9区画を有する一大仲卸になっている。
ただ、ネットスーパーの最大のネックは配送費だ。perrotの配送料は1回280円と比較的低いが、この価格にはこだわりがある。彼らの目指すものが、「家庭と生産地がダイレクトでつながること」であるからだ。
「僕らは生鮮流通。買い手からするとほしい商品がほしいときに手に入り、生産者からすると水揚げした魚を最もいい場所に届ける、それを可能にする世界を作りたい」と伊藤氏は言う。「稼げなくて跡継ぎのいない漁師さんが多いことが社会問題になっています。売り先に困らず商売が成り立つようになれば、持続可能な流通が可能になる。そのために自分たちが今はプレーヤーになっているだけなんです」
ITを使い、配達の密度を上げる仕組みの導入も検討しているところだという。
獲れたばかりの生鮮品を、できるだけ早く消費者に直接送る仕組みが実現できていなかったのは、「情報化が難しい」ためだった。フーディソンはこのつなぎ目になることを意識しているため、システムで稼ぐことを目指す。ビジネスモデルがそもそも通常のネットスーパーと異なるというわけだ。
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「小売り」とはどのような存在になるのか
perrotの配送エリアは東京23区および神奈川県川崎市、横浜市だけだが、今後は大都市圏を中心にエリアを拡大していく構えだ。いずれは魚ポチを利用する飲食店との提携も視野に入れる。また、今後は調味料やパン、総菜など、物流センターを整えながら生鮮3品以外にも展開する予定だ。同時に多拠点化でネットスーパーのスケール化を図り、24年3月には月間アクティブユーザー数4万超を目指す。
家庭と生産地がダイレクトでつながったとき、「小売り」とはどのような存在になるのか。生鮮ネットスーパーの存在は、生産者と消費者の新しい未来を示している。
相馬留美(そうま・るみ)
経済誌記者、ベンチャー企業の上場準備室を経てフリーランスに。現在はビジネスメディアを中心に産業・企業に関する記事を執筆する一方で、フリーランスの活躍を後押しする活動に従事している。
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