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Saturday, July 18, 2020

今こそ、あなたのお気に入りのカフェを支援すべき理由 - ハーパーズ バザー・オンライン

T・S・エリオットの詩集『The Love Song of J. Alfred Prufrock』では、人生をコーヒースプーンで測った。ちなみに、私は自分の人生をコーヒーに使ったお金で測っている。銀行口座から流れ出ていくお金は、私にはお気に入りのカフェがロンドン中にあることを思い出させてくれる。

道に迷った時や寒い時、落ち込んだ時や疲れた時、人は近くにコーヒーショップを探す。チェーン店以外の店を見つけてみよう。わかりやすい場所にはなかったり、狭い裏通りの奥にあって見つけるのはほぼ不可能だったり、個人経営のコーヒーショップは、いつも両手を広げて暖かく迎え入れてくれる遠い親戚のようであり、雨に降られた後で見る自分の家の玄関のようでもある。

コーヒーショップに入ると、アラジンの洞窟に迷い込んだような気分になる。入った途端に襲ってくる、ひきたてのコーヒー豆のいい香り。深く、ナッツのような、チョコレートのような、フルーティな、シャープな香りが全て一挙に押し寄せてくる。人のざわめきや話し声が絶えず背後に聞こえるほうが、静寂より生産性があがるという逆説的な効果もある。コーヒーをひと口を飲む前から、すでにそうなのだ。

今年は、世界でもっとも長く続いているコーヒーショップの開店300周年にあたる。1720年、ベニスのサンマルコ広場にあるカフェ・フローリアンがオープン。カサノヴァからプルースト、モネ、ウォーホルまであらゆる人々がきらびやかな店に惹きつけられ、コーヒーを口にした。私は、高級クラブの一室のような壁に囲まれ、"偉大な亡霊"たちとともにエスプレッソを飲む。

ロンドンでは18世紀初頭にコーヒーシーンが栄え、それがイギリス初の雑誌出版のきっかけになり、ジョセフ・アディソンとリチャード・スティールが『The Spectator 』や『The Guardian』、『The Tatler』を創刊し1ペニーで売り始めた。市内のコーヒーハウスのテーブルは印刷物やニュースレター、本などで埋め尽くされ、"ペニー・ユニバーシティ"と呼ばれるようになったほどだった。

piazza san marco at night the famous florian caffe venice italy photo by godonguniversal images group via getty images

Godong

コーヒーショップがなければ、多くの偉大な文学作品も生まれなかっただろう。あるいは、少なくとも、作品は違ったものになっていただろう。エリオットやフランツ・カフカ、ガートルード・スタイン、F・スコット・フィッツジェラルドといった作家たちはみな、コーヒーショップで執筆するのを好んだ。アーネスト・ヘミングウェイにとっては、「大理石のトップのテーブル、カフェクレームの香り、早朝の掃除やモップ掛けの匂いと幸運がありさえすればよかった」という。パリ回想記『A Moveable Feast』は、彼がアパルトマンの近くにあったモンパルナスのカフェ、ラ・クロセリー・デ・リラ(La Closerie des Lilas)で書いたものだった。

コーヒーとコーヒーショップは、テレビでも常に魅力を放ち、シリーズの中心になることもよくある。誰もが知っている『フレンズ』のセントラル・パークは、コーヒーは二の次で、仲間と一緒になることとその場所が提供してくれる居心地のよさが第一だ。『ギルモア・ガールズ』のルークス・ダイナーは、全員がカフェイン中毒で(まず一番に)メインキャラクターのローレライが「私の人生で起こることはすべて、コーヒーと関係がある」と言い、シリーズの中での作用点になっている。

friends central perk

Getty Images

映画では、『アメリ』のオドレイ・トトゥが、パリのモンマルトルに実在する風変わりで夢のようなカフェ・ドゥ・ムーランで働いている。『ティファニーで朝食を』で、オードリー・ヘプバーンが『ムーンリバー』のサウンドにのって歩き、コーヒーのテイクアウトカップを握りしめたまま立ち止まり、ティファニーの本店でダイヤモンドを憧れの眼差しで見つめる、オープニングシーンの哀愁を帯びたロマンスを忘れることはできない。

アーティストたちも、コーヒーショップに魅力を感じていた。世界でもっともよく知られた絵のひとつ、エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』は、深夜のニューヨークのダイナーの内部を表現した作品だ。目を凝らすとカウンタートップの上にコーヒーが入った白いマグカップが2〜3個あり、夜の住民たちを支えているのが見える。ゴッホの『星月夜』のプレリュードになる作品のひとつが、『夜のカフェテラス』だが、最初に展示された時のタイトルは『Coffeehouse, In The Evening』だった。絵の具のぼかしが、夕暮れのカフェと人々の様子をとらえている。

edward hopper american, 1882 1967, nighthawks, 1942, oil on canvas, 841 x 1524 cm 33 18 x 60 in, art institute of chicago photo by vcg wilsoncorbis via getty images

Fine Art

何カ月もコーヒーショップに行かない生活をしたことで、いま、コーヒーショップがより特別な場所に感じられる。みんなと同じように、私もアートギャラリーを訪ねたり、髪をカットしたり染めたりしたい。しかし、それよりしたいことは、いいコーヒーショップに行って腰を下ろす気分を味わい、クリエイティブな心を持った人のエネルギーが周囲に反響するのを感じることだ。

キーボードの音を立てている人たちは次のベストセラーになる作品を書いているかもしれないし、仲良くおしゃべりしている友人たちは熱く近況報告をし、恋人たちは日曜の儀式になっているフラットホワイトを飲んでいる。カフェにはどこか落ち着く気分にさせるところがある。人と一緒なのだけれど、同時にプライベートでもある。そんな人生のハブが、何世紀にもわたって作家や思想家たちをインスパイアしてきたのも不思議ではない。だから今こそ、これまで以上にコーヒーショップに対する私たちの支援が必要な時なのだ。


Translation: Mitsuko Kanno From Harper's BAZAAR UK

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