連載:ロングセラーの挑戦
長い歴史を持ち、生活者に支持されている施設や商品。変わらないサービスや味に支持が集まる一方、新しい層の取り込みに向けた新しい施策を進めている。どのような挑戦をしているのか、その動きを紹介する(不定期掲載)
アイスといえば、カップにバー、コーン、チューブタイプと、さまざまな形状が発売され、季節を問わず食べられるようになった。その中でも毎年売り上げの上位に入るのが明治が展開する「明治 エッセル スーパーカップ」だ。濃厚な味わいとなめらかな舌触りが支持され、1994年の発売からカップアイスの定番として親しまれている。
そんな明治 エッセル スーパーカップが新たな取り組みを実施。2021年12月、ミクシィが運営するスマホアプリ「モンスターストライク」(以下、モンスト)とのコラボキャンペーン「超レアカップ祭」を開催した。
これだけ聞くと「人気ゲームとコラボしたよくあるキャンペーン」と思うかもしれないが、明治 エッセル スーパーカップにとっては、今回が初のIP(知的財産)コラボとなる。
期間は21年12月7日〜22年2月15日の約2カ月。キャンペーンの結果、明治 エッセル スーパーカップの売り上げは前年比112%を記録。モンストのコラボ商品として過去最大規模の生産数・流通量を達成し、延べ約60万人が参加したヒットキャンペーンとなった。
それだけではない、明治 エッセル スーパーカップのコアターゲットである学生・若年層の平均購入個数は、前年同期比の約1.4倍に増加し、公式Twitterのフォロワー数は4万人増加したというのだ。
しかし、ふと疑問に思ったことがある。カップタイプのアイスを食べるためには「カップを持ち、スプーンをつかんで」と両手がふさがってしまう。スマホゲームであるモンストとの親和性があったのかという点だ。
読者の中には、「食べる時は両手がふさがるのが当然」と思う人も多いだろう。デジタル化が進む現代、スマホやタブレット、ゲーム端末などを手に持つ機会が増え、同時に複数のことをこなす“マルチタスク”が当たり前になっている。
スマホを手に持っているなら片手で食べられる商品がより親和性があるのではないか。なぜ、明治 エッセル スーパーカップはモンストとのコラボに踏み切り、売り上げ増につなげることができたのだろうか。
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アイス市場は好調
日本アイスクリーム協会によると、20年度のアイスクリーム類の市場規模は5197億円、前年比0.9%増となった。
11年度(4058億円)以降、18年度までの7年間市場拡大が続き、19年度は天候不順の影響で0.7%の前年割れとなったものの20年度は18年度の5186億円を上回り、過去最高の販売額を記録した。天候による影響のほか、巣ごもり需要の拡大などが要因となった。
市場全体の傾向は右肩上がりな一方、ロングセラー商品である明治 エッセル スーパーカップでは、コアターゲットである若年層が離れる傾向が見え初めていた。
若年層が離れる理由は何か――。明治のフローズン・食品マーケティング部 フローズンデザートグループの吉岡征史氏は、SNS映えを意識した商品の台頭や先述したマルチタスク化をあげる。
「各社の品ぞろえも含め、コンビニエンスストア向きの商品や話題性を打ち出すラインアップが多く出るようになりました。そのため、明治 エッセル スーパーカップは若年層から“ちょっと古臭い”と感じられてしまうことが課題として挙がっていました」(吉岡氏)
1994年に誕生した明治 エッセル スーパーカップといえば、超バニラ、抹茶、チョコクッキーとシンプルな3種のフレーバーに、『たっぷり安くておいしい』という“王道なアイス”をテーマに展開してきた。
「“王道感”を意識するあまり、全世代を対象としたプロモーションが比較的多かった」と吉岡氏。「特定のターゲットを狙って成長させる発想がなかったため、アイスクリーム本来の価値でもある“楽しさ”の訴求が少なくなっていました」と振り返る。
一方、ミクシィ側にも明治 エッセル スーパーカップと組みたい理由があった。
「モンストユーザーはもちろん一般消費者に対しても、モンストブランドを想起させるタッチポイントを作っていきたいと考えていました。その中でモンストのユーザーボリュームに見合う、全国展開している企業さまとのタイアップを検討していました」。こう話すのはミクシィ モンスト事業本部の山本忠智香マネージャー。
若年層への接触頻度を増やしたい明治と、誰もが知る商品とのコラボで一般消費者との接触機会増を狙うミクシィの思惑が一致。明治 エッセル スーパーカップにとっては初となるIPコラボを実施することになったというわけだ。
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成功の要因として挙げる3つのポイント
「スマホゲーム」と「カップアイス」、一見すると親和性がないように思えるが、今回の施策はなぜ成功したのか。両社はその要因として3つのポイントをあげる。
1、576通りのオリジナルパッケージ
今回のキャンペーン最大の特徴は何といってもパッケージデザインの多さだ。モンストのキャラクターをデザインした外フタと内フタをそれぞれ24種類用意。全部で576通りの組み合わせを楽しめるようにした。
明治 エッセル スーパーカップではこれまでも、パッケージを活用したキャンペーンを実施してきたが、これほどの規模は今までになかったという。また、モンストにとっても、コラボパッケージ史上最大の組み合わせ数となった。
山本氏は「576通りを目指したというよりは、結果そこに行き着いたところがある」と振り返る。
「内フタには、何が出るか分からない“ガチャ要素”があると考えていました。モンストはデジタル上のスマホゲームですが、遊び要素やゲーム性をリアルでも体験できるようにしたいと考えていた時、出てきた種類が576通りの組みあわせでした」(山本氏)
また、576通りのラインアップは、ついつい集めたくなる“コンプリート欲”を刺激する効果もあった。
モンストには同種類のモンスターを集め、「ラック(運)」を上限値の99に到達させる「運極」というシステムがある。キャンペーンに参加した人の中には運極をまねて、特定のキャラクターが描かれたデザインだけを集める人もいたという。
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2、パッケージを活用したデジタル施策
また、パッケージを活用したデジタル施策も購入数の増加に寄与した。キャンペーン期間中、内フタに記載した二次元コードを読み取るとゲームと近い表現演出で「壁紙」をダウンロードでき、キャンペーンページ上でコレクションできるようにした。
二次元コードの合計読み込み回数を達成するごとにゲームユーザー全員にアイテムを配布するキャンペンーンも実施。モンストユーザーへの購買促進と、新規ゲームユーザーの獲得を目指した。
山本氏によると、モンストではガチャの結果をツイートする習慣があるといい、今回の施策でも同様の動きがみられたという。
3、Twitterの「フォロー&リツイート」キャンペーン
3点目のポイントが、明治 エッセル スーパーカップの公式Twitterで実施した「フォロー&リツイート」キャンペーン。以前から実施されている「抽選でオリジナルグッズが当たる」というキャンペーンだが、今回は累計で約38万リツイートを達成。アカウントのフォロワー数も実施後に約4万人増加する結果となった。
その要因として、山本氏は「コアターゲットの若年層を中心に、幅広い層が購入したり利用したりする両社の特性がマッチしていた」と分析する。
モンストのゲーム性をパッケージで再現することで、明治 エッセル スーパーカップに“食べる以外の楽しさ”を付加。新たなユーザーとの接点へとつなげることに成功した。吉岡氏は「一度食べてもらえれば必ずリピートにつなげる自信はあった」と胸を張る。
「ブランド戦略として、食べたことがあるという喫食経験が必ず今後につながるという考えがあります。これまで培ってきた『品質への自信』はありましたので、一度離れてしまったユーザーに、今回のキャンペーンを通して1回でもアプローチできれば必ずリピートにつながると考えています」(吉岡氏)
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今回のキャンペーンを決断したもう一つの理由として、吉岡氏はコロナ禍ならではの事情もあったと振り返る。
通常のキャンペーンは、スーパーなどの店頭にPOPやボードを取り付けて訴求を図るが、コロナ禍で店頭の棚をつくる作業が厳しくなっていた。そこで、パッケージやデジタルをフルに活用したキャンペーンを展開。流通側の負担を減らしながらも、消費者が商品を見ただけで、コラボしていることが分かる点も決め手だったという。
吉岡氏は、キャンペーンの盛り上がりや売り上げ増とあわせて「やってよかった」と感じる部分があったという。それが、ブランドに対する社内の意識をよりポジティブに変えられた点だ。
「明治グループの中でも明治 エッセル スーパーカップはとても大事にしているブランドです。今までやっていなかったことに足を踏みいれるワケですから、社内でもさまざまな意見があり、結構な議論を重ねました。
また、複数のパッケージデザインを同時期に発売するためには、確認作業やスケジュールなどで社内の多くの人間にも負担をかけることになりました。社内での議論や一連の施策を通して、今までの“お堅いイメージ”からちょっと楽しいプロモーション展開ができたことは、社内の意識を一つ変えられたかなと感じています」
大事なブランドだからこそ守りに入ってしまうことは多い。今回のコラボの裏側には、守りから攻めに転じる、アイスが溶けるほどアツい思いがあった。
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からの記事と詳細 ( 576通りのフタで売り上げ増 明治 エッセル スーパーカップとモンストのコラボが成功した3つの理由 - ITmedia ビジネスオンライン )
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