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Sunday, March 8, 2020

スーパーチューズデーを征したバイデン連合の爆誕!:ザ・大統領戦2020(15)池田純一連載|WIRED.jp - WIRED.jp

スーパーチューズデーの結果、民主党予備選の先頭には「セントリスト/モデレート」のバイデンが立ち、サンダース(「プログレッシブ」)との一騎打ちの構図が出来上がった。「黒人&高齢者」の支持を集めるバイデンと、「ヒスパニック&若者」の支持を集めるサンダース。今後の趨勢を読み解く。

スーパーチューズデイを経てようやく候補者レースのトップに立ったジョー・バイデン。MARIO TAMA/GETTY IMAGES

2020年3月3日、ジョー・バイデンが華々しい復活を遂げた。

民主党予備選の最初の関門であるスーパーチューズデーでバイデンは、予備選の開催された14州のうち10州で勝利を収め、代議員(delegate)獲得数でフロントランナーに躍り出た。アイオワで4位、続くニューハンプシャーで5位と、スタートでいきなり躓いたバイデンだったが、ここにきてようやく、全米での支持率調査でトップを走ってきた実力を見せつけた。

だが、この復活劇は、実のところ、スーパーチューズデー直前のたった3日間で用意されたものだった。2月29日に開催されたサウスカロライナ・プライマリーでバイデンは、これまで公言してきたとおり圧勝し、予備選の状況は一気に大きく動きだした。その日を起点にしてわずか3日で、バイデンの下に民主党のセントリスト/モデレートが集約する「バイデン連合」が形成された。その成果が、スーパーチューズデーでの大勝利だったのである。

それもこれも、有権者の6割を黒人(アフリカ系)が占めるサウスカロライナでの勝利が大きかった。サウスカロライナにおけるバイデンの得票率は実に48.4%。2位のサンダースが19.9%なので、倍以上の差をつけてのぶっちぎりの大勝利だ。バイデンは黒人票の3分の2を独占し、全ての選挙区でトップとなった。サウスカロライナはバイデン一色の、まさに「バイデン・ランド」だったのだ。これまでサウスカロライナはバイデンのファイアーウォールであると再三再四強調されてきたのも納得がいく結果であった。

この快勝でバイデンは代議員を29名獲得したのに対して、サンダースは9名にとどまり、他の候補者は1名も得られずに終わった。その結果、サウスカロライナを終えた時点での総獲得代議員数は、サンダースが56、バイデンが52、ブティジェッジが26、ウォーレンが8、クロブッシャーが7であった。ブティジェッジとクロブッシャーは、かねてからの懸案であった「黒人票への食い込み」を果たすことができなかった。

「メイヤー・ピート」の挑戦は、一旦幕を閉じる。MARIO TAMA/GETTY IMAGES

この結果を受けて、トム・ステイヤー、ピート・ブティジェッジ、エイミー・クロブッシャーの3名が次々と予備選からの撤退を表明し、一気に候補者数は5名にまで絞られた。その背後には、各候補者の事情だけでなく、民主党の重鎮(いわゆる「エスタブリッシュメント」)からの圧力もあった。というのも、これ以上、バイデンを含めたセントリスト/モデレートの間で票を奪い合っていては、サンダースの進撃を止めることができないという焦りが広まりつつあったからだ。

民主党の予備選では、代議員の配分は、共和党のような勝者総取り方式ではなく、得票数に応じた比例配分方式が採用されている。ただし、それにも条件があって、代議員の配分資格として、最低でも15%の票を獲得することを求める「15%ルール」が定められている。となると、候補者が多ければ多いほど、突出した一人の候補者に利する状況が生まれてしまう。15%以下の得票は、代議員レベルでは「死に票」になってしまうのだ。

今年の場合であれば、セントリスト/モデレートの間で「一本化」が図られないまま予備選が進めば進むほど、サンダースに有利に働く。特に代議員数の3分の1が賭けられるスーパーチューズデーでの勝利は、あとから挽回不可能なほどの優位性をその勝者に与えかねない。民主党内の中道派からすれば、もう猶予はなかったのだ。そこで、たった3日間の連合形成劇の幕が上がった。

まず、サウスカロライナ・プライマリーの当日、バイデンの勝利が確定した直後、ステイヤーが大統領戦からの離脱を表明した。次いで翌3月1日にブティジェッジがリタイアした。かねてから懸念されていた黒人からの支持の伸び悩みを、結局、サウスカロライナで解消することができなかった。このことが撤退理由の一つだが、しかし、サウスカロライナの結果が出た翌日に即座に決断したのは、撤退後の身の振り方を考えてのことだったに違いない。

民主党の中道派の利益を考えるなら、撤退のタイミングはスーパーチューズデーの前でなければならない。しかも撤退表明はクロブッシャーよりも先のほうが望ましい。その方が、セントリスト/モデレートの中核である民主党エスタブリッシュメントの覚えがよくなる。なぜなら、サウスカロライナの結果で、ブティジェッジと同じく黒人票の獲得に失敗したクロブッシャーも撤退を考えざるを得ない状況にあったからだ。そんな中で、彼女よりも先にブティジェッジがリタイアを決めれば、彼よりも獲得代議員数の少ないクロブッシャーに対して周囲からの撤退圧力はおのずから高まる。つまり、先に撤退を決めたほうが、中道派の民主党をバイデンの下に結集させた最大の功労者として記憶される。このあたりは機を見るに敏なブティジェッジらしい判断だ。政治家としての将来価値の吊り上げのための選択に抜かりがない。

案の定、ブティジェッジが撤退を決めた翌日の3月2日──その日はスーパーチューズデーの前日でもある──クロブッシャーも離脱を表明した。こうして「バイデン連合」の素地が作られた。

予備選からの撤退を決めたブティジェッジとクロブッシャーは、スーパーチューズデー前日の3月2日、ダラスで開催されていたバイデンの支持者集会に揃って登場し、両者とも民主党の候補としてバイデンを支持すると公表した。同じ会場には、テキサス州から大統領予備選に立候補していたベト・オルークも応援に駆けつけ、そのままバイデンの支持を唱えた。こうして、セントリスト/モデレートの間で、サンダース包囲網とも呼ぶべきバイデン連合が形成された。

ついこの間まで互いに激しい論戦を繰り返し、ときには相手の人格の否定にあたるような中傷合戦まで行った者どうしが、一夜にして連合を組むに至った。いみじくもアメリカのメディアがこぞって形容したように「アベンジャーズ」が形成されたのだ。

実際、このアベンジャーズの結成は、見事、功を奏した。翌日3月3日のスーパーチューズデーで、バイデンは、予想以上の大勝利を収め、一気にフロントランナーに躍り出ることができた。

だから、もしもこの先、バイデンが民主党の候補に選ばれるようなら、そして、11月の本選で大統領に選出されたならば、そのときは、この2月29日の夜から3月2日までの間の、民主党中道派の間での丁々発止の駆け引きが、その後の一連の出来事を決める「曲がり角」であったと記録されることだろう。

そういえばブティジェッジは、撤退を決める直前にジミー・カーター元大統領と会談する場を持っていた。ブティジェッジは、キリスト教への信仰心の厚いカーターをかねてから尊敬していた。ブティジェッジが、民主党に信仰を取り戻せ、と主張している背後には、カーターの存在もあった。そんなカーターと、ブティジェッジは何を話していたのだろうか。

バイデンはキャプテン・アメリカ、サンダースはロキ!?

ともあれ、バイデンは、強力な連合を得た上でスーパーチューズデーに臨み、見事、14州のうち10州で勝利した。具体的には、北東部はマサチューセッツとメイン、南部はヴァージニア、ノースカロライナ、テネシー、アラバマ、アーカンソー、中西部はミネソタ、南西部はテキサスとオクラホマ、と言う具合だ。

バイデンは、黒人票が期待できる南部諸州で勝っただけでなく、クロブッシャーのお膝元であるミネソタでも勝利し、ウォーレンのホームグランドであるはずのマサチューセッツでもトップに立った。極めつけは、カリフォルニアに次ぐ第2の代議員数を擁するテキサスでトップに立ったことだ。

いずれにせよ、全米で満遍なく勝利を収めた結果、バイデンは、アメリカの「ユナイト=統合」を成し遂げることのできる候補者であるという強い印象を残した。スーパーチューズデーでの勝利ならではの副産物である。

一方、サンダースは、早い段階でAOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)の助力を得ながら、若いヒスパニック層の取り込みに力を入れてきたことが功を奏し、最大州のカリフォルニアで勝利することができた。同じくヒスパニック人口の多いコロラドでも勝利し、これに地元のヴァーモントとユタを加えて、都合4つの州で首位に立った。

CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

このスーパーチューズデーの結果、予備選の焦点は、完全にバイデンとサンダースの二人のマッチアップに絞られた。

さらに、この情勢の変化を素早く理解し、マイケル・ブルームバーグも予備選からの離脱を発表した。11月に立候補を表明してからわずか3ヶ月、101日間の選挙戦に、見切りよく終止符を打った。大成したビジネスマンらしい損切りの速さだ。しかも同時にバイデンの支持を表明することも忘れなかった。ブルームバーグの目標は、あくまでもトランプをホワイトハウスから追い出すことであり、そのための協力は惜しまない、この先も民主党の予備選に関わっていく、と語った。ブルームバーグは、自分の選挙戦用に用意したインフラをバイデンに提供することも考えているということだ。

終わってみればバイデンは、南部に限らず全米から幅広い支持を集めることができる「力強い」候補者として浮上しただけでなく、ブルームバーグのような資金力のある支援者も自陣に加えたことになる。3月29日のサウスカロライナ・プライマリーからわずか1週間あまりで、極めて強固な「バイデン連合」が形成された。

文字通り、アベンジャーズが誕生したわけだ。さしずめ、連合の中心にいるバイデンがキャプテン・アメリカ、大富豪のブルームバーグが同じく大富豪のアイアンマン(トニー・スターク)といったところか。悪ノリついでにいえば、従軍経験のある若手ブティジェッジがファルコン──『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見た人ならピンとくると思うが、彼はキャプテン・アメリカからシールドを手渡されている──であり、パワフルな突破力のあるクロブッシャーがハルクだろうか(クロブッシャーは、立候補直後、移動時のランチ用にフォークを持ち込むのを忘れた女性スタッフに命じて、彼女の櫛を使って食事をしたというエピソードが語られ、暴君的な議員として悪目立ちしていた)。最後に、すっかり忘れられていたところでひょっこり現れた人気者ベトは、クリス・プラット演じる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主人公スター・ロードあたりか。このノリで行くと、サンダースは第1作で敵役だったロキであり、ロキの背後にいたラスボスのサノスが、最終的に倒すべき相手トランプ、ということになる。

……とまぁ、こんなバカなことを書いたのは、とはいえ、スーパーチューズデー直後のアメリカメディアの雰囲気を表すものとして意外と悪くないと感じたからだ。誰もが思い浮かべることのできる物語は、日頃は出会うことのないような人びととも幅広く連帯を図ろうとするときに、それなりに有効な手立てとなる。思わずニヤリとしてしまうバカバカしさは、しばしばポピュラリティの源泉だ。そして、ラスボスがメディア巧者のトランプであるならば、こうしたバカバカしさも存外、捨て置けない。

それはともあれ、こうしてアベンジャーズ=バイデン連合が、あっという間に形成された。ネヴァダ・コーカスで勝利したサンダースがフロントランナーとなったのがはるか昔のことに思えるほどだ。むしろ、あの時にセントリスト/モデレートの人たちが共通して感じた「ヤバさ」──あ、このままでは、バイデンは2016年のジェブ・ブッシュの二の舞になってしまう……という焦燥感があったからこそ、一気に状況が動いたともいえる。

前回も触れたように、誰を大統領候補に選ぶかは、大統領選だけでなく、同じ日に行われる様々な公職──連邦議会の上院と下院の議員や州知事など──の選挙にも多大な影響を与える。そして万が一、大統領だけでなく、連邦議会の上院や下院の多数派を失えば、その余波で最高裁判事も保守が多数派となる時代を迎えることになるかもしれない。むしろ、この最高裁の保守化というドミノ効果こそが、民主党の支持者たちが──それこそエスタブリッシュメントから市井の支持者たちまで含めて──最も怖れることだ。判例法の国であるアメリカでは、日常生活に影響する法律の取り扱いという点で裁判所の存在感は極めて大きく、事実上、何が道徳であるかを水路付ける力をもっている。そのトップにあるのが最高裁だ。しかも最高裁判事は終身職のため、判事の交代には長い時間がかかる。こうした「最悪のシナリオ」の恐怖が、突如、成立したバイデン連合の背後にはあったといってよいだろう。

選択を迫られるウォーレン

一方、逃げ切る側から追いかける側に立場が代わったサンダースからすれば、この先、票をかき集めていくためには、ウォーレンとの関係をどうするか、が火急の課題となった。セントリスト/モデレートの側が、バイデンを核に結集したのならば、同様に、プログレッシブ側のサンダースも、ウォーレンと連携する必要に迫られる。端的にいえば、ウォーレンに撤退を促すほかなくなる。そのため、ブルームバーグの離脱声明を聞いた後、サンダース陣営とウォーレン陣営のトップスタッフどうしで会合が開かれたのだが、その結果が、3月5日に公表されたウォーレンの撤退声明だった。

大統領選からの撤退を表明したエリザベス・ウォーレン。サンダースとバイデン、どちらをエンドースするのだろうか? SCOTT EISEN/GETTY IMAGES

もっとも、サンダース側からの打診がなくても、ウォーレンが崖っぷちに立たされていたのは一目瞭然だった。なにしろ、本来なら大勝して当然のはずのホームグラウンドであるマサチューセッツで、あろうことかウォーレンは3位に甘んじてしまったからだ。しかも、トップはサンダースではなくバイデンという皮肉付き。もちろん、これはプログレッシブの票をサンダースと分け合ってしまった結果だったのだが。ともあれ、この残念な結果が、ウォーレンの息の根を止めてしまった。

ただし、ウォーレンの公表は、予備選からの離脱にとどまり、どの候補者をエンドースするかは保留されたままだ。これはウォーレンはウォーレンで、政治家として難しい局面にある、ということからなのだろう。サンダースを支持すれば、それは事実上、今後、民主党の党組織の支援を得るのが難しくなることを意味し、最悪、どこまでも我が道を行く「デモクラティック・ソーシャリスト」であるサンダースのように、インディペンデントのごとく振る舞わなければなくなるかもしれない。だが、それでは、自らをずっと「(ソーシャリストではなく)キャピタリスト」と名乗ってきたウォーレンからすると、信条を曲げることにつながる。もっとも、ウォーレンが「キャピタリスト」と称してきたのが、心底、それを信じているからなのか、それとも「プログレッシブ(党内左派)」の中でサンダースとの間に明確な違いを設けるための一種の方便であったのかは、はっきりしないところがある。

だが、ウォーレンの思いはどうであれ、彼女が、一般に信じられているようにサンダースを支持するのか、それとも、予想に反してバイデンの支持に転じるのか、で、予備選の風向きもまた微妙に変わることだろう。先走った見通しになるが、仮にウォーレンがバイデン支持に転じるようなら、サンダースは、2016年大統領戦のときと同様、民主党のアノマリー(逸脱)として周縁化される。だが、それは回り回って、AOCのような若手議員の発言をより過激なものにすることにもつながるだろう。

鍵はステルス・マイノリティ(=ヒスパニック)の動向

ともあれ、こうして、事実上、民主党の予備選は、バイデンvsサンダースのマッチアップにまで収斂した(一応まだトゥルシー・ギャバードが立候補を続けているが、どう見ても泡沫候補でしかない)。一時は28名も候補者がいたことを思うと、この集約ぶりには、軽く驚きを覚える。ある意味で、この結果は2016年の予備選の再演であり、当時のヒラリー・クリントンがバイデンに代わっただけともいえる。となると、予備選は、あの時と同じように6月まで継続する可能性が色濃くなってきた。

そこで、この先の展開を見通す上で重要なのが、スーパーチューズデーで顕著になったバイデンとサンダースの勝ち方の違いである。2人は、“Black & Brown”を分け合い、高齢者と若者を分け合った。バイデンがBlack=黒人ならびに高齢者の支持を得たのに対して、サンダースはBrown=ヒスパニックならびに若者からの支持を固めた。その結果が、バイデンの南部での勝利と、サンダースの南西部、特にカリフォルニアでの勝利だ。

この中で、特に今回の選挙戦で気にかけておくべきは、「ステルス・マイノリティとしてのヒスパニック」とでもいうべき興味深い傾向だ。それは、バイデンとサンダースのマッチアップとなった今後の予備選において、事態を動かすトリックスターとなるのがAOCなのではないか、という予感にもつながる。

アメリカでは同じくマイノリティにカウントされる黒人とヒスパニックであるが、それぞれ、メディアでの取り上げられ方、あるいは、メディアでのプレゼンスは大きく異なっている。

黒人は、ヒップホップやプロスポーツを通じて、今では現代アメリカの文化的アイコンの一翼としての地位を確立しており、日頃からなにかと旧来のメインストリームメディアでもプレゼンスを確保している。その分、彼らの政治への影響力は、すでに常識として受け止められてきた。

しかし、ヒスパニックについては、テレビにしても専用のスペイン語チャンネルが用意されてしまうように、メインストリームメディアからは、いまだに番外地扱いされていて目につきにくい。だが、その分、彼らの熱狂は、インスタグラムを駆使するAOCのように、ソーシャルメディアを通じて拡散する。その結果、彼ら以外の目にはそれほど触れることなく、しかしその影響の広がりはすでに全米に亘っている。この「見えない/潜行した」動きは、投票日を迎えて唐突に一般の人びとの目にもわかるものとなる。

となると、むしろ、ヒスパニックの方が、彼らのヴォイスを預ける一種の人柱として、サンダースを見出したともいえるのでないか。その場合、「投票」とは、日頃繰り広げられる、経済=ビジネス主体の社会運営の中で忘れられた人たちが、自らの「存在証明」を示すための表現手段として認識されていることになる。その様子は、多国籍企業の台頭によって、ビジネスの分野で、つまりは日常の消費行動の現場で、多様性(ダイバーシティ)や包摂性(インクルージョン)を重視するWoke Capitalismの採用が当然視されてきている一方で、その反動としてアメリカ政治が保守に傾いている、というこの数年の動きとも呼応しているといえそうだ。その意味で、「選挙」は、政治側の祭り、というかフェスのような位置づけになりつつあるといえるのかもしれない。

ともあれ、サンダースの台頭は、ステルス化された人たちが、彼らの声=代弁者として、サンダースを見出した結果だったとして、その数の多さで、ヒスパニックの動きが際立ったわけだ。

実は、4年前の時点では、AOCもそんなヒスパニックのひとりだったわけだが、いまではむしろ、有能な筆頭使徒として、いち早くサンダースを大統領候補者としてエンドースし、ヒスパニック人口の多い南西部でサンダースへの支援を呼びかけてきた。その結果が、カリフォルニアやネヴァダ、コロラドでのサンダースの勝利である。いずれも、ヒスパニックの北進が顕著な南西部での勝利だ。

ヒスパニック票の動向に大きな影響力を持つアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)。ALEX WONG/GETTY IMAGES

こう見てくると、ちょうどAOCがインスタグラムを駆使して彼女の主張への賛同を広く訴え、それをミームとして拡散させているように、サンダース陣営は、ソーシャルメディアに潜伏しながら有権者ごとに個別にメッセージを送る、マイクロターゲットの手法に訴えてきたと考えてよさそうだ。

その点では、2016年のトランプとあまり変わらない。違うのは、サンダースがまさに2016年大統領予備選を通じて「ステルスたち」の声を集約させるアイコンになったことと、その2016年の選挙戦を通じて、AOCのような若い使徒を組織することができたことだ。

実際、AOCたちは、サンダースの主張をより現代的な文脈に合わせた形で伝え、インスタグラムなどのソーシャルメディアを通じて若者からの支持を集めている(もっとも、その一部は“OK Boomer!”のようなCancel Cultureの出現にもつながるわけだが)。その一方で、サンダースの掲げる「社会的弱者/貧者救済」の理想を、1930年代のフランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)大統領時代における、人びとの権利の確保とそのための社会的再配分の実践にまで遡って位置づけようとする。そうすることで、サンダースの主張こそが、むしろ本来の民主党の姿であると強調する。

サンダースが、メディケア・フォーオールについて医療保険を確保するのは近代人の権利として当然のことだ、と主張するのもその一つであり、AOCたちが、FDRのニューディールにあやかり、「グリーン・ニューディール」を主張するのもその一つだ。むしろ、「グリーン」の政策をサンダース陣営が奪取したかたちであり、そうして、民主党内部での正統性を確保しようとしている。

新型コロナ・ウイルスが与える影響

このようにAOCたちの助力を得て、サンダースはヒスパニックの有権者、特に若い有権者と良好な関係を築いてきた。その点で気になるのが、テキサスの結果だ。事前の予想に反してバイデンがテキサスで善戦できた背後には、直前にベト・オルークがバイデンの支持を表明したことも効いたのかもしれない。ベトは、ヒスパニックからの支持が厚かった。あるいは、数少ないヒスパニック政治家で大統領選にも立候補していたフリアン・カストロが、早くからウォーレンの支持を表明したことで、プログレッシブ支持者の票を、サンダースとウォーレンの間で割った可能性もあるのかもしれない。

スーパーチューズデー前日、バイデンの集会で演説をおこなうベト・オルーク。DYLAN HOLLINGSWORTH/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

いずれにせよ、バイデンの次の課題は、ヒスパニックの実力者や文化的アイコンの支持を早期に取り付けることだろう。そうして、いかにしてヒスパニック票を取り込むか、そして若い有権者の声に応えるのか、というのが課題になりそうだ。彼らが、本選当日、大挙して投票所に駆けつけてくれるかどうかは、やはり大きな力を持つからだ。

こう見てくると、今年の予備選の教訓としては、スーパーチューズデーの結果を見る限り、“Black & Brown”の時代には、もはやアイオワとニューハンプシャーは先行指標にはならないということが明らかになったことだろう。それよりもむしろ、2月に予備選が開催される「アーリーステイト」としては、南部と南西部の方が重要なのだ。黒人の多い南部のサウスカロライナと、ヒスパニックの多い南西部のネヴァダの2つが予備選の行方を左右する。ネヴァダを征したサンダースと、サウスカロライナで圧勝したバイデンが、予備選の本命となった事実が、そう物語っている。

そのうえで、今後の予備選で話題となるのは、ミシガンやオハイオといったラストベルトの動向だ。このラストベルトの民主党からのまさかの造反が、2016年のトランプの勝利(=ヒラリーの敗退)の主たる原因と考えられている。いわゆる「白人労働者=ホワイトワーキングクラス」が、バイデンとサンダースのどちらを選ぶのか。裏返すと、白人労働者の票を、サンダースとバイデンが、どのように奪い合うのか。3月に開催される予備選では、この「ホワイトワーキングクラス」へのアプローチならびにその結果に注目すべきだろう。

そして、最後にもう一つ、ここに来て、予備選のみならず本選をも左右しそうな事案となってきたのが、コロナ・ウイルスへの対処だ。単なる公衆衛生問題、あるいは医療問題ではなく、たとえばニューヨーク証券取引所(NYSE)における株価の乱高下に見られるように、もはやマクロ経済問題であり、さらには安全保障問題と化している。もちろん、外交問題にもつながる。

つまり、アメリカでいえば、911やリーマンショックに匹敵する事件となりつつあり、そのような社会的不安を煽る事件が大統領選の年に生じたことの影響は、今後、徐々に明らかになっていくことだろう。少なくとも現状では、そのような不安な社会的空気を振り払うリーダーとして、より現実的で、専門的な対処を迅速に行えるような実務家タイプの政治家を求める声が高まりつつあるようだ。

もちろん、このような解釈もまた、時代の空気を反映した一つのナラティブでしかないのだが。だが、その点で、サンダースやトランプのような、従来とは大きく異なる革命的な政策を語ることで人びとの関心を強く引きつける流儀だけでは、単なる空手形として一蹴される可能性も出てくる。この点は、今後も気にかけておきたい。いつか、予備選や本選の空気を変えた事件として振り返られる時があるようにも思えるのだ。なにしろ、内憂外患のうち、外患については究極的には外部の第3者に責任を押し付けて忘れることもできるが、内憂については、誰の責任にもできず自分たちの手で対処するしかない。その点で、不安な時代に頼れるリーダーとはどのような存在なのか?という、一種抽象的で文学的な問いが、意外と今後の大統領選に取り憑く問いとなるのかもしれない。

いずれにせよ、予備選の戦場は、3月10日のミシガン、ワシントン、ミズーリ、ミシシッピ、ノースダコタ、アイダホの予備選を経て、3月17日のフロリダ、イリノイ、オハイオ、アリゾナの予備選に移る。特に3月17日は、本選でのスイングステイト(接戦州)であるフロリダとオハイオが登場する次の山場である。バイデンとサンダースがどのような戦い方をするのか、今から楽しみだ。

サンダースを熱狂的に迎えるイーストロサンジェルスのヒスパニック系支持者たち。DAVID MCNEW/GETTY IMAGES

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