10月第2週〜3週にかけて、札幌を舞台にテクノロジー・音楽・映像のフェスティバル「NoMaps(ノーマップス)」が開催された。今年は新型コロナウイルス拡大の影響で、NoMaps で開催される多くのイベントがオンラインに移行した。
例年、経済産業省らが開催する「NoMaps Dream Pitch」もそんなイベントの一つだ。技術やビジネスモデルが評価され表彰を受けた北海道を中心とするスタートアップ9チームを紹介しておきたい。
審査員を務めたのは次の方々。
- 伊藤博之氏(クリプトン・フューチャー・メディア 代表取締役、NoMaps実行委員長)
- 小笠原治氏 (ABBALab 代表取締役、さくらインターネットフェロー、京都造形芸術大学教授)
- 各務茂夫氏(東京大学大学院工学系研究科 教授、産学協創推進本部 副本部長)
- 里見英樹氏(メディア・マジック 代表取締役)
- 田中慎也氏(BIJIN & Co. 代表取締役社長)
- 廣川克也氏(SFC フォーラム 事務局長、SFC フォーラムファンド ファンドマネージャー)
Haratte by AmbiRise(北海道札幌市)【最優秀賞・北海道経済産業局長賞】
行政機関では、受け付けた請求書の内容をシステムに入力する時間が1団体あたり年間8,000時間、全国合計で年間40万時間費やされているという。請求受付業務の自動化や省力化は以前からの課題だが、会計システムと自動連携するには困難を伴う。会計システムはネットワーク的に閉じられた位置にあり外部との直接連携が難しく、そのシステム改修のコストが捻出しづらいなどの理由からだ。
今年まで18年間にわたり行政に勤務していた創業者が AmbiRise を設立。同社の最初のプロダクトとして立ち上げたのが行政宛請求プラットフォーム「Haratte」だ。Haratte では、請求元で請求情報の入った QR コードを請求書に印刷してもらい、それを行政側で読み取ることで入力業務を簡素化する。行政の作業効率化に寄与する ことから、料金は行政がサブスクモデルで支払う。
Pickles by Horizon Illumination Lab Optics(北海道札幌市)【優秀賞・NoMaps 実行委員長賞】【特別賞:NEDO TCP(Technology Commercialization Program)賞】
国内で1万症例、世界に患者が7万人いるとされる慢性骨髄性白血病(CML)は、異常な遺伝子(BCR-ABL 融合遺伝子)からつくられるタンパク質が白血病細胞を増殖させて生じることがわかっている。一般的に、この種類の白血病の治療には当該のタンパク質の生成を抑える分子標的治療目的でダサチニブ、ニロチニブ、イマチニブなどの5種類の抑制薬が存在するが、どのような患者や症状にどの薬を処方すべきか効能が期待できるか明確な基準が無い。この状況には CML 患者も血液内科医からも不満の声が上がっている。
Horizon Illumination Lab Optics の開発した光診断薬「Pickles」は、BCR-ABL 活性を測定できるバイオセンサーだ。Pickles 遺伝子を導入した検体に候補となる抑制薬で処理を行うと、顕微鏡で見た際に赤く見える検体が青く変化し薬剤応答が確認できる(薬剤の効果がない場合は青く変化しない)。CML 細胞一つひとつの薬剤応答を見える化することができ、薬を処方する前の段階での効果の予測、副作用による薬の変更、休薬やジェネリック薬への変更などを医師が判断しやすくする。癌治療への応用も可。
<参考文献>
エアシェア(北海道帯広市)【優秀賞・NoMaps 実行委員長賞】【特別賞:NICT 賞(起業家万博全国イベント、北海道地区代表)】
エアシェアは、旅行者と航空機オーナーとパイロットを Web 上でマッチングするサービスだ。旅行者は、完全オーダーメードの遊覧飛行や区間を直接結ぶ移動手段、オーナーにとっては遊休時の資産運用や節税対策、パイロットにとっては官公庁や航空会社に勤める以外でのプロとしての収入確保の手段が獲得できる。
パイロットとオーナーはそれぞれ、自由に金額を設定・提示することができる。旅行者からのオファーがマッチングすると、パイロットとの間でチャットボックスが開設され、例えば「自分の家の上を飛んでほしい」といった詳細なオーダーも可能だ。10月現在、飛行機8機、ヘリコプタ15機、パイロット27人が登録している。国土交通省から、適法性と安全対策を認めた承認を受けている。
類似したサービスとしては、アメリカの Aero や BlackBird(今年2月、Surf Air により買収)、国内では「Tokyo Startup Gateway」第4期に採択されデモデイで最優秀賞を獲得した「OpenSky」などがある。
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MIJ labo(北海道帯広市)【審査員特別賞】
環太平洋地域においては、牛肉は切開され枝肉の形で格付けされ取引されている。この格付け作業は目視で行うため格付けする人によって個人差があり、格付けデータは紙に記され画像を伴わないため、整理をするには必ず現場に出向く必要がある。また、データが紙であるため、格付け・取引後の流通業への仕分け作業にも時間がかかっているのが現状だ。
帯広畜産大学発のスタートアップ MIJ Labo では、枝肉の撮影画像をクラウドへアップロード、画像解析により 牛肉の質を客観的に評価するシステムを開発した。ホクレンらとリモート競りシステムを試験運用中で、国内の 県畜産研究所や海外の格付認定機関でも利用されている。将来はブロックチェーンを活用した、輸出拡大につながるEC プラットフォームへの応用にも期待される。
<参考文献>
DeVine(北海道札幌市)【審査員特別賞】
犬や猫を飼う世帯が増えるにつれ、その周辺のペット関連市場にも変化が現れ始めている。こうした中で、特に伸びを示しているのが動物医療や保険の分野だ。一方、動物が長生きする中で3歳以上の犬・猫の8割以上が歯周病に罹患しているとのデータがあり、中でも重症の場合は、歯根と鼻腔の間に穴ができてつながってしまう口腔鼻腔瘻になってしまう。
口腔鼻腔瘻になると口臭がひどくなり、犬・猫は呼吸が苦しくなるので治療することになるが、治療の際の抜歯後にで聞いた抜歯窩(歯茎の穴)に、人間の場合と違って、犬・猫の場合は充填剤を入れずに上皮を縫合することが多いという。これは薬事法で認められた充填剤が動物用には存在していないからだが、DeVine では北海道の未利用資源を使って、動物の歯再生医療の開発を目指す。
Fant(北海道帯広市)【審査員特別賞】
近年、日本では20代〜30代の若手ハンターは増加傾向にある。ジビエの人気もその追い風となっている。しかし、ハンターのスキルを習得するには、狩猟会などに所属し狩猟を教えて食える人を身近で見つけ実地で学ぶしかない。若手のハンターが参入する一方で、ベテランハンターが高齢などを理由に引退しており、若手とベテランの間での情報や技術の伝達は不十分な状態だ。
Fant は、ハンターのためのオンライン・オフラインコミュニティだ。いつ、どこで、何を獲ったかを他のハンターとシェアができる。狩場を知られたくないと感じるハンターがいることも事実だが、野生生物の繁殖の方が早いため、情報の共有をためらうハンターは少ないとのこと。4月にオンラインコミュニティを開設し200人以上が参加、11月からはハンターによる狩猟ガイドツアーも計画。
足うらスキャンLab(北海道札幌市)【特別賞:NEDO TCP(Technology Commercialization Program)賞】
高齢者社会において、転倒は大きな社会課題になりつつある。転倒がもたらす弊害により直接的には8,000億円、寝たきりや介護などの間接的な影響も加えると医療費は1.4兆円に達する。従来、転倒の原因は高齢化に伴う筋力の低下と考えられていたが、実際には身体の揺れに大して、足の指、特に、親指をうまく使えない調整機能の低下が大きく関係していることがわかったという。
転倒経験者は非経験者に比べ4倍再転倒しやすい。高齢者施設やジムでは、適切な対応のために、入所者や会員の将来転倒する可能性を知りたいというニーズがあったが、これまで足指の機能を客観的に評価する手段がなかった。同社の足圧測定機器を使えば、定量的定性的に足指の機能を評価できる。点数化しスマートフォンで結果を把握、適切な運動諸法につなげ転倒予防することも可能だ。
<参考文献>
MJOLNIR SPACEWORKS(北海道札幌市)【特別賞:NoMaps 賞】
衛星需要が伸びているが、一方で、これを打ち上げるロケットが少ない。2030年には、衛星の打ち上げ需要は17,000基に達すると見られるが、実際の打上げ能力は2,500基分にしか届かないと見られている。ロケットは同じ工業製品である自動車や飛行機と比べ、現在のものは大量生産に向かず、生産工程の分業化が進んでおらず、また、水素と酸素を爆発させる従来タイプのエンジンは失敗のリスクが高いためスタートアップなどの新規参入も見られにくい。
北海道大学発の MJOLNIR SPACEWORKS は、固体燃料(プラスチック)と液体酸素を使ったハイブリッドエンジンを開発。構造が簡単で原理的に爆発しないため取扱が容易で、同社では年間1万基程度を生産できるだろうと見積もる。冷戦時の軍事技術をベースとした従来型のロケットと対照的に、戦争に参加しなかった日本は、ハイブリッドエンジンの開発に長けているという。同社はハイブリッドエンジン開発に特化し、ロケット業界全体の分業徹底により業務効率化やコモディティ化を狙う。
R-Make by チームデジコン(北海道札幌市)【特別賞:NoMaps 賞】
ボルダリングにおいてはいくつかの課題がある。クライミングコースを作るセッターが不足しており、スペース やコストの問題から子供を含むさまざまな体格の人に合ったコースを用意できないこと、難易度がコース制作者 の感覚で定められるため指標が曖昧であること、配置されたクライミングホールドのうち、どのホールドが非効 率か(コースとして使われていないか)を判定しづらいなどだ。
R-Make は、クライミングコースを自動生成してくれるアプリ。コースの難易度と身長を入力すると、誰でも簡 単にコースを作成することができる。作ったコースはプロジェクターでウォールに投影し事前確認することも可 能だ。使われたホールドを記録できるので、よく使われるホールドをヒートマップ表示し効率的な運用もでき る。クライミング施設から費用を徴収する B2B2C モデルを想定。
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November 15, 2020 at 10:15AM
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