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Wednesday, June 30, 2021

【アウディ S3スポーツバック 新型試乗】「360度優等生」なスーパーハッチバック…南陽一浩 - レスポンス

のっけから結論をいうと、RSシリーズほどのハイパフォーマーではないが公道でも踏み込んでいけるシャシー能力の高さ、AWDながら味気ないどころか適度にエンターテイメント性のある動的質感には、文句のつけようがない。全方位的に優等生だからこそ、出来映えが恐ろしく素晴らしいからこそ、嫌味のひとつもいいたくなる。とまあ、それこそが「らしさ」かもしれない。『A3』ファミリーと同時に日本上陸を果たしたアウディ『S3スポーツバック』は、そんな一台だ。

直4とは思えないほどワイルドなエキゾーストノート

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今回試乗したS3は、セダンではなくスポーツバックの方、「ファースト・エディション」で、車両価格はじつに711万円となっている。欧州CセグのAWDベースかつスーパーホットハッチとして、306psのメルセデスAMG『A35 4MATIC』のベース価格が600万円台前半である以上、かなり強気の価格設定だとは思うが、またユーロ高と相対的な日本円の購買力の落ち込みが進んでいる以上、致し方ないことなのか。

ノーマルの「A3スポーツバック」と外観の違いは、フロントグリルのフレームがブラック処理で、バンパー両脇のエアスクープも大口仕様でボディ同色、シルバーの加飾が控えめあること。バンパー形状の違いだろう。全長は5mmだけ長いが、意外にも全幅はノーマル同様の1815mmに収まり、前/後トレッドの1545/1535mmも同一。

他に目につく外寸上の数値の違いは、S3スポーツバックの車高は1440mmと同じくAWDで2リットルの「40 TFSIクワトロ Sライン」より5mm高いが、ホイールベースは他のスポーツバックの2635に対して5mm短く、2630mmとなっている。A3ファミリーのAWDモデルはすべてリアサスペンションにウィッシュボーン型式を採っているが、S3ではサブフレームの先ごと、別仕立てのようだ。

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直4・2リットルターボについても、82.5×92.8mmというボア×ストローク比は40 TFSIと共通ではある。チューニングと制御の違いで310ps/5450-6500rpmと400Nm/2000-5450rpmを実現しているのは間違いない。とはいえ圧縮比が9.3へと下げられており、ツインスクロールのブースト圧に低回転域からもち上げられてのフラットトルク感は強いが、耳に聞こえてくる勇ましいエキゾーストノートは高回転側での伸びを強調する、そんなパワーユニットだ。

直4とは思えないほどワイルドなエキゾーストノートに一役買っている、もうひとつ重要な要素は、7速Sトロニックのシフトスケジュールだ。2速はノーマルの40 TFSIと共通のギア比。だがその先の3-4-5‐6速はクロースではなく、むしろノーマルよりわずかにワイドに区切られており、5500rpm前後のパワーバンドまで踏みたくなってしまう巧みな設定だったりする。

コシがある足回りに、感心させられる

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かくしてシフトをSモードにするとエキゾーストの盛り上がりにのせられ、ペースを上げてしまうのだが、アウディ自慢のクワトロ・システムの切れ味が、これまたいい。225/40R18というタイヤサイズは、A3のエントリーモデルたる30 TFSIにも「アドバンスト」グレードならオプション装着で選べる、それほど控えめなタイヤなのだが、駆動レスポンスの鋭さ、絶大なグリップ感、リアから押し出されるような小気味よさで、効率よく路面を蹴り上げる。

並のAWDでアクセルを強めに踏むと、無粋なトルクステアやクルマが直線的に立ち上がるような武骨な感触があるものだが、ブレーキベクタリングも用いているとはいえ、S3スポーツバックは、あくまでステアリング操舵、つまりドライバーの意思をリスペクトしてくれる。ようは自然な立ち上がりラインをトレースしながら、オンザレールで路面をかき上げていく感覚が持続する。

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加えて感心させられるのは、足回りだ。ノーマルより明らかに控えめなストローク量ながら、コシがある。その乗り心地よさだけでなく、沈み込んだ先の弾力感と伸びの滑らかさが絶妙で、制動時に無駄にダイブしないブレーキと、インフォメーション豊かなステアリングフィールと併せて、緻密な姿勢コントロールが可能なのだ。喩えとしてどうかと思うものの、食感でいえばエビとアワビのような違いがある。

エアコンの操作系の左下あたり、「AUDIドライブモード」の切替は物理的ボタンで、タッチパネル上にエフィシェンシー/コンフォート/オート/ダイナミック/インディヴィジュアルという5つのモードが現れる。ダイナミックにすると、確かにコンフォートやエフィシェンシーよりサスの縦方向の動きが締まって、ステアリングフィールも中立付近が敏感になり、ロールが抑えられるが、それでもストローク感は損なわれない。インディヴィジュアルの各設定で、ステアリングだけダイナミックにして、郊外路ツーリングに充てるといった使い方もオツそうだ。

2021年はCセグが熱い

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S3スポーツバックの欠点を強いて挙げれば、車重が1560kgと欧州Cセグのハッチバックとしては重量級であること。AWDであることを鑑みればそれでも軽いのかもしれないが、走らせてみて重さを感じさせないところが、不思議と可愛げない。それだけ5mmだけ詰めたショートホイールベースのジオメトリーと足まわりが決まっている証拠でもあるが、なぜ釈然としないか、最後に合点がいった。

『S1』がディスコンした今、S3はアウディ全体のラインナップで、RS系を頂点とする「役物シリーズ」の入門モデル的な役割を担う。S1の車両価格が400万円台後半だったことを思えば、今やその入門コストは次世代S1のデビューまで一時的かもしれないが、250万円近く高騰しているという見方もできる。

さらに余計なお世話かもしれないが、デザインやトリム、制御プログラムこそ違えど、同じMQBプラットフォームやパワートレイン関連のコンポーネントを共有するはずのVW『ゴルフ8』、その『ゴルフR』との事前調整ぶりも気になる。するとAWDでないコーナリングマシンという点で、優等生というより別ジャンルの尖りモノかもしれないが、先だって登場したルノー『メガーヌR.S.』のMT仕様のような選択肢も浮かんでくる。

いずれ、昨年は日欧のBセグが盛り上がったが、今年はCセグが熱い年であることをS3スポーツバックの出来映えを通じて確認できただけに、贅沢な悩みなのだろう。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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