こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
ウルトラマンとスーパー戦隊。ともに日本を代表するヒーローだけど、戦えばどっちが勝つだろうか?
片や巨大な宇宙人。片や5人の人間(が多い)。考えるまでもなく、ウルトラマンの圧勝……という気がする。少なくとも、筆者はそう思っていた。
ところが、ある点に着目すると、そう簡単な話ではないかも……という気がしてきたのだ。
そこで本稿では、二つのグループの代表者による戦いをシミュレーションしてみよう。どちらも歴代ヒーローが多数存在するが、ここでは「初代ウルトラマン」と「獣電戦隊キョウリュウジャー」に戦ってもらうことにする。
――そして、筆者が注目した「ある点」とは、変身の仕方である。
◆スーパー戦隊の自己紹介
ウルトラマンの変身はシンプルだ。科学特捜隊のハヤタ隊員がベータカプセルのボタンを押すと、フラッシュビームがまぶしく輝き、光のなかからウルトラマンが現れる。身長40m、体重3万5千tという堂々たる体躯! そして、変身の全行程は、せいぜい5秒ほどだ!
一方、獣電戦隊キョウリュウジャーの変身は、ぜんぜん簡単ではない。
彼らの変身シーンは、主人公・桐生ダイゴが「行くぜみんな!」と声をかけるところから始まる。
その声に4人が「おう!」と応じ、続いて全員で「ブレイブ・イン!」とハモる。
そして5人は、拳銃のような形の変身アイテム(武器をも兼ねる)ガブリボルバーに、次々にエネルギーをチャージしていく。
チャージが済むと、ガブリボルバーのシリンダーを回し、ラテンの音楽に合わせて、皆でちょっと踊ったりもする。
踊りが終わり、5人そろって「ファイアー!」と叫ぶ。すると、ガブリボルバーの銃口から恐竜の頭のようなものが飛び出し、大きな口を開けて5人の体を飲み込む。恐竜の頭が消えたとき、5人は5色のスーツをまとっている……!
――これにて変身は完了。所要時間は44秒だ。
が、これで終わりではない。キョウリュウジャーには、戦隊伝統の「自己紹介」があるのだ。
5人は建物の上などに飛び移り、レッドが敵に向かって「聞いて驚け!」と叫ぶと、1人ずつ名乗りを上げていく。
「牙の勇者! キョウリュウ・レッド!」どかーん!
「弾丸の勇者! キョウリュウ・ブラック!」どかーん!
「鎧の勇者! キョウリュウ・ブルー!」どかーん!
「斬撃の勇者! キョウリュウ・グリーン!」どかーん!
「角の勇者! キョウリュウ・ピンク!」どかーん!
セリフのあとの「どかーん!」は爆発音である。科学的には不可解な現象だが、名乗ると、なぜか彼らの背後で爆発が起こるのだ。
自己紹介を終えた5人は「アームド・オン!」と叫んで、建物から飛び降りる。
そして、それぞれの武器を片手に、全員揃って「史上最強のブレイブ! 獣電戦隊・キョウリュウジャー!」と叫んだ後、最後にレッドが「荒れるぜ~! 5人そろって止めてみな!」。
――こうして変身と自己紹介がようやく終わる。「聞いて驚け!」から49秒。スーツをまとう時間と合わせると、1分33秒もかかっている。
ていねいに自己紹介をするのは、すばらしいことである。変身して姿を変えるのだから、新たに名乗ってあげれば、悪の怪人たちも混乱しないですむだろう。
しかし、時間が長くて忘れているかもしれないが、今回の相手はウルトラマンなのだ。
このヒトは地上では3分しか戦えない。キョウリュウジャーは、その貴重な時間の半分を超える1分33秒を、変身と自己紹介に費やしてしまった。ウルトラマンは「俺には時間がないんだ。急いでくれ」と言いたいところだろう。
だが、相手が自己紹介しているあいだに攻撃したりするのは、正義のヒーローとしてはもちろん、良識ある社会人としても許されない行為だ。ウルトラマンはじっとガマンして聞くしかない。
その結果、スーパー戦隊の自己紹介が終わったとき、ウルトラマンに残された時間は、わずか1分27秒……。
◆勝負は4秒間で決まる!
まあ、1分27秒もあれば、ウルトラマンなら勝てそうな気もする。ただしそれは、彼が残り時間を存分に使えれば、の話だ。
身長40mのウルトラマンが相手となれば、キョウリュウジャーは巨大ロボットを出動させるだろう。巨大ロボも、スーパー戦隊の伝統なのだ。
キョウリュウジャーの場合は、まず「獣電巨人」と呼ばれる3体の恐竜型生命体を発進させる。それが合体して人間型の巨人・キョウリュウジンになる。画面で計ると、獣電巨人の発進だけで20秒もかかっている。
――ってことは、残り時間は1分7秒。
では、獣人巨人3体の合体にどれほど時間がかかるのか? ドキドキしながら画面を計測すると……、うわっ、所要時間は1分3秒!
残り1分7秒のうち、1分3秒を合体に使われてしまった。すると、ウルトラマンに残された時間は、たったの4秒。これでいったい、どう戦えというの!?
しかも、このキョウリュウジンは、全高52.5m・体重3800tで、最高出力は1400万馬力だという。
一方、ウルトラマンは「たたかえウルトラマン」という歌のなかで、腕力が100万馬力と紹介されていたから、するとキョウリュウジンのほうが14倍も強いことになる。
体重こそウルトラマンの9分の1だが、これほどのパワーとなると、キョウリュウジンの体重の軽さは、ウルトラマンにとっては凶報でしかない。体重が軽いうえにパワーがあるということは、スピードがすごいということなのだ。計算すると、その差は実に5倍! スピード差5倍とはものすごい。
耐えに耐えて、じっと待ち続けたウルトラマンの前に、やっと出現した対戦相手は、自分の14倍もパワフルで、5倍も速い。しかも残り時間は、わずかに4秒……。
これで勝てるのか、ウルトラマン!? こうなったらもう、いきなりスペシウム光線をしゅばばば~と撃つしかない! が、当たるのか? 5倍のスピードで翻弄され、14倍のパワーでぶん殴られまくっているうちに、貴重な4秒は、たちまち時間切れになってしまうのでは……!?
そんなわけで、最初「ウルトラマン圧勝」と思われた対戦も、具体的に考えてみると、意外な展開になりそうなのだ。
勝負というものは、やってみなければわかりませんなあ、としみじみ思う。
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