スーパードライのフルリニューアルプロジェクト「SD2.0」が発足してから、発売の22年3月まで1年足らず。なぜこんな短期間で味の刷新を行えたのか。その裏には、「我々とお客様の『うまい』がずれているのではないか」と常に疑い、自主的に集まって味の研究を重ねていた技術者たちの姿があった。SD2.0中味チームのリーダーが、突貫で行われた味のリニューアルの内実を明かす。
「常に最高品質の自信はある。それなのになぜ売り上げが減っていくのか」。縮みゆく日本市場で、このような悩みを抱えながら日々仕事をしている人は多いのではないだろうか。
その状況は日本最強ブランド「スーパードライ」であっても同じだった。「技術陣はスーパードライが大好き。だから売り上げが落ちるのが純粋に悲しい。なぜなんだろうと」。アサヒビール酒類技術研究所 技術第一部 部長の岡本高樹氏は現場の声をそう代弁する。
岡本氏だけではなく、誰もがスーパードライへの問題意識を持っていた。しかし何といっても、メガブランドであるスーパードライはアサヒにとっての聖域。「我が社はそこには踏み込めない」、そう思っていた。
そんな岡本氏が、どのようにフルリニューアルプロジェクト「SD2.0」にかかわっていったのか。「スーパードライの味を変える」、36年目にして初めての挑戦を追った。
有志が自主的に集まり“課外活動”
岡本氏は1997年に入社。西宮工場(当時)での技術系を振り出しに、本社や研究所などを渡り歩いた。ニッカウヰスキーに出向し、ブレンダーも経験。ビールと蒸留酒の両方を知るのが強みだ。
スーパードライの処方を初めて見たとき、「よく練られている」と思ったという。アサヒに限らず、食品や飲料、酒類メーカーは、工場によって設備が異なる。一部の工場でしか作れない処方であれば、それは意味がない。どこの工場で作っても、しっかりと同じ品質を作れることを、アサヒでは「処方が“堅い”」と表現する。「頑健性があることがスーパードライの処方。無駄がなく、とても“きれい”で、これを地ビールの醸造の人とかと話すと盛り上がったりする」と、技術者らしい例えで特徴を説明する。
いったんビールから離れ、ニッカから開発プロジェクト部に戻ってきたとき、前任者との引き継ぎの中で聞かされたのが「スーパードライが元気がない。下げ止まらない」という実情だった。今から3~4年前のことだ。
「もしかしたら、我々のうまいとお客様のうまいがずれているのではないか」。そんなことを思っていたところ、研究所でも同じような問題意識を抱えている社員がいた。もしも、スーパードライをもっとおいしくするのならどうすればいいか? 会社からのオーダーでなく有志が自主的に集まり、研究が始まった。
方向性は大きく2つ。「若者は薄口志向なんだから、もっとニアウォーターのようにすっきりさせたほうがいいのでは」というキレ至上派。もう一つは「キレを気にしすぎるあまり、もしかしたら必要なコクさえも削(そ)いでしまっているのではないか」というコク回帰派。岡本氏は後者だった。「自分が西宮工場にいたころには、いかに同じ味を作り続けるか、ここだけに注力していた。ただそのころのスーパードライはもっと香りがよかったのではなかったか」。そんな思いを主張した。
だが、調査の結果は痛み分けだった。どちらの方向性も、現状のスーパードライの味を変えるまでには至らない、と結論付けた。業務と並行して、こんな水面下の“課外活動”を2年ほど行っていたという。
「お客様のことを本当に見ていたのか」
アサヒは20年8月、「アサヒスーパードライ 史上最高のうまさ実感キャンペーン」を発表。酒税法改正の10月から、商品・広告・販促・店頭を連動させてスーパードライを売り伸ばす、こんな目算を立てていた。
「史上最高のうまさ」、このヒントになるような言葉を発したのは、岡本氏だった。実際、アサヒの専門パネリスト(特別な訓練を積み、官能試験を突破した味覚のスペシャリスト)が、官能評価において過去最高の評価を下したのは事実だった。
同じ処方であっても、できることはある。アサヒがスーパードライで標榜し続けてきた「鮮度」はまさにそうだ。今回も、素材や酵母のさらなる厳選、酸化を防ぐ取り組み、工場に合わせた醸造技術の最適化などで、史上最高にうまいスーパードライができた。ならばこれをキャンペーンの軸に据えてお客様に訴求しようではないか、こういう流れだった。
新商品であれば、その新規性や革新性をそのままマーケティングで伝えればよく、非常にシンプルだ。だが既存ブランドでは、リニューアルなどの取っ掛かりがなければ、継続的に情報発信することは難しい。でも発信をし続けなければ、ブランドの活性は落ちてしまう。これも現場は分かっている。
キャンペーンで何かうたい文句が欲しいから、何かないか? こんなことを現場に言われても、毎回そんなに都合のいい何かがあるわけがない。これは岡本氏やアサヒに限らず、どんな既存ブランドにも言えることだろう。「マーケティング的な活動の一つ。でもお客様のことを本当に見ていたのか、どうなんだろうな、とは思っていた」(岡本氏)
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