三重県多気町のVISON(ヴィソン)では、電動3輪バイクを借りてドライブできる。これも「スーパーシティ」を目指す構想の一環だ
ゴミ箱が動き回り、ドローンが上空から巡回警備する。血液1滴、尿1滴で住民の健康状態を測定し、オンライン診療では海外の医療機関とも連携する。デジタル地域通貨を発行し、決済は顔パス(顔認証)で完了。民間、行政のあらゆるサービスは、手のひらのアプリからアクセスできる──。
「スーパーシティ」という名の“未来都市”を目指し、こんな青写真を描いたのは、三重県内の6つの町。2021年7月20日、日本最大級の商業リゾート施設として全面開業した「VISON(ヴィソン)」(三重県多気町)を核に、多気町、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町が手を組んだ(関連記事「コンビニも自販機もない 反常識商業リゾート『VISON』の挑戦」)。
スーパーシティとは、データ連携と大胆な規制改革によって新しいサービスを生み出し、2030年ごろの未来の暮らしを先取りして実現しようとする都市のこと。「スーパーシティ型国家戦略特別区域」として内閣府が候補地を募り、全国から31件の案が寄せられた。
大自然をあえて生かす
冒頭の計画は、その中の1つ。単独市町村での立候補が目立つ中、6つの自治体が一枚岩になって推進するのは、類例がない。背景には、もはや1つの町では地方創生は成し遂げられないという現実がある。
20年の国勢調査で、6町の人口は計7万5457人。8万人にも満たない。15年の前回調査と比べると、6町すべてがマイナスだ。紀北町は10.5%減、大紀町は12.5%減と2桁の減少率だった。少子高齢化で地域の担い手が減り、老いゆくしかない未来。まさに自治体としての存続を懸けて挑むのが、今回の「スーパーシティ構想」だった。
その中心に据えるのが、ヴィソンである。アクアイグニス(東京・中央)と、イオンタウン、ロート製薬、ファーストブラザーズの4社が共同出資で運営会社のヴィソン多気を設立。産直マルシェや和食エリア、農園、ホテル、温浴施設、博物館など個性的なコンテンツを集めた。
スーパーシティは一般的に、更地から新たに開発する「グリーンフィールド型」と、既存の都市を再生する「ブラウンフィールド型」に分類される。今回の構想は、両者を組み合わせた「ハイブリッド型」だ。
ヴィソンという巨大リゾートを軸に、周辺へと徐々ににぎわいを広げていく。キーワードは「Green & Digital Mie(グリーン&デジタル三重)」。人口減少は止まらないが、一方で都会にはない広大な自然がある。6町の総面積は、東京23区の2倍近い1130平方キロメートル余り。この有り余るフィールドを最大限生かして、さまざまなテクノロジーを試しながら導入していこうと考えた。
「自然の豊かさと生活の利便性はある種、反比例するのが当たり前だった。デジタルや先端技術を組み入れることで、大自然の中であっても、利便性を体感できるようにしたい」
こう語るのは、大日本印刷モビリティ事業部の椎名隆之事業企画室室長である。
スーパーシティ「選ばれなくても続ける」
実は、この構想の代表事業者は、大日本印刷(DNP)が担っている。DNPといえば印刷会社のイメージが強いが、17年4月にモビリティ事業部を立ち上げ、今や各地の街づくりに顔を出す存在だ。
椎名氏がこの地に目を向けたのは、ヴィソン多気の立花哲也社長との交流がきっかけだった。「一緒にやろう」。立花氏から声をかけられ、「この施設だけが潤うのは意味がない。三重広域で人が行き交い、地域がもっと元気になるような取り組みを進めよう」との考え方で一致した。
20年5月に改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)が国会で成立。その少し前から仲間集めに動くも、最初はうまくいかなかった。椎名氏は当時をこう振り返る。
「スーパーシティという言葉が独り歩きして、毛嫌いされていた。僕自身が三重県内を回って議会説明にも立ち、地方創生のためには広域連携しかないと何度もご説明させていただき、だんだんと皆さんが輪の中に入ってきてくれた」。多気町単独から6町合同へ。民間企業も最終的に30社が集まった。
スーパーシティとして指定されるのは全国で5件程度とされるが、椎名氏は「5枠の中に入れなくても、続けていく」と明言する。特区に選ばれなかったから、国の補助金がもらえなかったからといって、解散の道は選ばない。実際に選定結果を待たずして、既に計画は動き始めている。
三重広域での「スーパーシティ構想」実現を目指す大日本印刷モビリティ事業部の椎名隆之氏
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