兵庫県内の農漁村で軽トラックなどを使った移動スーパーの存在感が増している。過疎化が進み、移動手段が乏しい高齢者の「買い物難民」にとって、定期的に近所を訪れる貴重な命綱だ。淡路島では地元スーパーが台数を増やし、東京から移住した夫婦が新たな担い手になった。対面販売を通じてお年寄りを見守る役割もあり、地方の暮らしを支える。(中村有沙)
昨年暮れ、播磨灘に面した淡路市江井地区に、移動スーパー「とくし丸」が訪れた。車を止めて店を開くと、近所から約10人の高齢者が集まってきた。
販売員の野崎敏郎さん(53)と妻裕子さん(55)が買い物客らに「年明けは7日に来るからね」と声を掛ける。年越しそばなどを購入した女性(73)は「近くのスーパーまでは歩いて半時間かかり、足がつらい。近くに来てくれて助かる」とほほ笑んだ。
とくし丸は、徳島市の企業が開発した移動スーパー事業で、全国のスーパーと提携し、ノウハウを提供している。各スーパーは、個人らと契約して移動販売を委託する。
淡路島内では2017年、地元スーパーのマイ・マート(洲本市納)が始めた。洲本市と南あわじ市に広げ、昨夏から淡路市でも展開。計4台に対し、利用者は約800人といい、生鮮品や総菜、日用品などを積み、週に2回巡回する。
野崎さん夫婦は元々、東京で働いていた。50歳を機に夢だった田舎暮らしをしようと淡路島への移住を考え、販売員に応募した。敏郎さんは「利用者と打ち解けてきた。待っていてくれるのが一番のやりがい」と話す。
マイ・マートは、高齢者の見守りで島内3市と連携協定を結んだ。販売員が利用者の異変を察知すれば、各市の地域包括支援センターに連絡する。橋本琢万社長(42)は「頻繁に顔を合わせるため異変に気付きやすい」とし、「まだ回り切れていない地域がある。今春から洲本市内でもう1台増やす」と話す。
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県内では、宍粟市や赤穂市でも各地のスーパーが「とくし丸」を走らせており、全国に広がりつつある。
生活協同組合コープこうべ(神戸市東灘区)も、同様の「移動店舗」事業を手掛けている。神戸、阪神、丹波、播磨地域と大阪府北部を9台で巡回している。
宅配のほか、店舗への送迎バス運行も行っているが、「実物を見て商品を選びたい」「送迎バスのルートから外れている」などの声を受けて続ける。広報担当者は「住民のコミュニケーションの場にもなっている。高齢化は今後も進む。地域の事情に合わせたサービスの一つ」と位置付ける。
■移動スーパー通じた見守り活動「都市部でこそ必要」
移動スーパー「とくし丸」は高齢化も相まって、全国で広がっている。ノウハウを開発した企業とくし丸(徳島市)によると、導入先は事業を開始した2012年の5台から、21年末時点で948台まで増加。全国約140社のスーパーなどと提携している。兵庫県内は淡路島の4台を含めて19台が各地を巡回する。
事業は元々、四国などの山あい地域向けに始まったが、都市部でも需要が広がり、東京都内で39台ある。兵庫県内でも、関西スーパーマーケット(伊丹市)とイトーヨーカ堂(東京)などが神戸や西宮、明石市の街中で走らせている。
とくし丸の広報担当者小川奈緒美さん(35)は、「高齢者の単身世帯が多い都市部は、地方に劣らず需要があると見込んでいる」とする。足が不自由で徒歩5分の距離のスーパーにすら行けないという高齢者がいることや、近所付き合いの薄さなどを挙げ、「移動スーパーを通じた見守り活動は、都市部でこそ必要」と力を込める。
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